遺言執行者からする相続登記の是非
2023.10.31
前書き
近年の相続法の改正によって遺言執行者の権限が明確になりました。また、令和6年には相続登記の義務化が始まります。亡くなった方の親族が遺言執行者になっているケースも時々ありますので、相続登記を申請する権限、遺言執行者が相続登記しなければいけなくなる場合を整理してお届けしようと思います。
遺言執行者とは
遺言執行者に関する規定は民法にあります。
・民法1012条1項「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」
・同条2項「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる」
・民法1013条1項「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」
・同条2項本文「前項の規定に違反してした行為は、無効とする」
分かりやすく相続登記に関していうと、遺言執行者は相続登記を単独で申請できるということです。そして義務化以降はしなければいけないということになります。
特定財産承継遺言
「新宿区神楽坂3丁目4番1の土地をAに相続させる」
上記のような~に相続させる、という遺言を特定財産承継遺言といいます。よく使われる遺言書の文言ですが、この遺言の場合は遺言執行者が相続登記を単独で申請することができます。実は法改正まではこの場合には相続人からしか相続登記ができず、少々不便な面がありましたが実務の要望に法改正で応えた形です。逆に言うと遺言執行者の責任が重くなっており、きちんと登記をしないでいると、例えば相続した相続人以外の相続人が勝手に相続登記をして自分の持分を売却してしまう等の事件があると責任追及される可能性があります。
遺贈の登記
相続させるという文言以外に、「遺贈する」という書き方もあります。この場合、相続人に対して遺贈するという遺言だと、相続登記はいまだに相続人と遺言執行者の共同申請になります。
清算遺贈型遺言
「遺言執行者が財産を全て売却してNPO法人へ遺贈する」
このような内容の遺言を清算型遺贈といいます。不動産がある場合は遺言執行者が単独で相続人名義に法定相続分で相続登記をしてから売却の登記をすることになります。
清算型遺贈は慈善団体への遺贈寄付がある場合によく用いられますが、遺言執行者を専門家にしておかないとかなりの負担がありますのでご注意ください。
後書き
法改正によって遺言執行者の権限は明確化しましたが、実は実務では不明確な部分も多々あります。考え方としては、これまでは遺言執行者は相続人の代理人という立場でしたが、法改正後は遺言者の最終意思を実現する立場になります。その考えに沿ってケースバイケースで判断し、勉強し続ける毎日です。
文責:庄田