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不動産会社社長の遺言執行の事例

2023.11.30

初めに

従前から懇意にしていた不動産会社の社長様から遺言書の作成から遺言執行者への指名までをお引き受けしていた案件です。作成から1年程して、奥様から社長様が亡くなったという連絡がありました。

 

ケース詳細

会社は典型的な一人会社で、オーナーも役員も社長一人。

会社経営者の相続はそう簡単にいかないのが常ですが、今回もいくつか問題がありました。

・社長は今の奥さんとの間に子供がおらず、前妻との子供がいる

・前妻に対して借り入れがある

・会社名義の借り入れが2本あり、代表者である社長も個人で連帯保証している

・会社の決算書を見てみると近年は売上が落ち込み、役員報酬未払いによる累積の赤字が3千万円ほどある

・個人のお金と会社のお金の区別が難しい

相続発生の時点で、会社の株式の評価はさておき、社長個人と会社のトータルキャッシュ的にはプラスの相続財産とマイナスの相続財産が同じか、少しマイナスになっていた。更に相続発生後も会社の事務所の家賃などはどんどん出ていく。相続放棄も検討しつつ、急いで資産の洗い出しをすることに。

 

対応

会社は奥さんが事務として働いてはいたが、引き継ぐつもりはなく、また後継者もいないため、閉鎖する予定だったが、M&Aで売却できる可能性があると説明すると可能であればぜひ売却したいというご要望がありました。

この会社は不動産などの資産は全くなく、累積赤字が3千万円ある状態でしたが、売れる要素が二つありました。一つは、宅建業の免許番号が9番であったこと。宅建免許の番号は古いほど会社がそれだけ長く存続していたということで信用されやすくなり、9番ということは最低でも5年ごとの更新を9回したということで45年存続していることが分かります。二つ目は、累積赤字(繰越欠損金)がきちんと青色申告で確定申告されており、同業をするのであれば節税に使えるということです。

また、遺言執行の一環で前妻とそのお子さんに相続の発生をご連絡し、状況を説明したところ、貸付金さえ返ってくるのであれば相続分はいらないといってくださりました。

全体像が見えてきたので、急ぎ会社の売却先を探し、生前から社長の知り合いだった不動産会社社長が買い手として引き受けてくれることになりました。

銀行と前妻への借り入れを返済し、最終的には、奥さんの手元には数百万円の現金が残り、相続放棄しなくて良かったと感謝され、また、会社を購入した社長からも節税になって非常に喜ばれました。

 

終わりに

会社は赤字でも売却できることはあります。相続発生時の初期の見極めが重要になります。実際に動いていた会社が関係する場合、相続発生から3か月という期間はあっという間に過ぎてしまいます。限定承認できればよいですが、相続人全員の同意がいるため、ケースバイケースです。こんなケースもありますので、会社経営者の方は遺言書の作成を是非していただき、執行は専門家まで。

文責:庄田