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遺言書への預貯金口座記載のススメ

2024.01.29

遺言書作成サポートの業務時に、ヒアリングしておきたい事項のひとつに、「預貯金」があります。

有価証券などもわかっている方がいいのですが、上場株式・投資信託口座であれば一括管理している「ほふり(証券保管期間振替機構)」で調査することができます。ところが、現状では、金融機関全体で故人の口座が存在するかどうかを調べる方法はありません。そのため、金融機関を利用していたかの調査から始めることになります。通帳やキャッシュカードが見当たらない、ネットバンキングを特定できないなどで故人の口座が分からない場合、利用していそうな金融機関を推測し、その金融機関にしらみつぶしに問い合わせを行う、という地道な方法しかありません。

遺産整理業務を受けているといつも気になるのが、故人の預貯金はこれですべてなのだろうか、ということです。以前、受けたご依頼の中でこんなことがありました。

亡くなったおひとりさまのAさんは身の回りのお世話をしていた甥のBさんを受遺者として、亡くなる数年前に公正証書で遺言書を作成していました。ところが、Aさんが亡くなる数か月前にBさんがお亡くなりになりました。遺言によって財産を受け継ぐはずであった人が遺言者より先に亡くなってしまった場合、亡くなった人が引き継ぐはずだった財産は、相続人全員の共有財産となります。このAさんの財産を引き継ぐため、相続人全員が遺産分けの話し合いを行うことになりました。

遺言書の存在をはじめは伺っておらず、自宅から発見された通帳やキャッシュカード数行分のコピーをお預かりし、解約業務をおこないました。これで全部であろうと思っていたのですが、Bさんの相続人Cさんから参考までにと遺言書の写しをもらったときに、自宅にあった通帳以外の預貯金債権の記載を見つけました。念のため問い合わせてみると、なんと数百万円の預金がありました。遺言書に記載していたおかげで、通帳やカードを紛失していた預金を見つけることができたのです。

そういったことから、遺言書を作成するのであれば、特に預金に関しては、今現在保有しているものを記載することをおすすめします。もちろん、預金だけでなくすべの財産を記載してあれば、相続財産を見落とすことなく引き継ぐことができます。

故人が残した銀行口座の預貯金を遺族が把握できない場合、しらみつぶしに調査をすることになりますが、近年は、銀行のペーパーレス化が加速し、通帳に比べて、預貯金の存在が見えにくくなっているという課題もあります。

そこで疑問なのが、もし遺族が故人の銀行口座を相続しなかった場合に残されたお金はどうなるのか、ということです。

死亡時に限らず、10年間放置され続けた銀行預金は、「休眠預金」といって、NPO法人などの民間団体が行う公益活動の資金源に活用されます。銀行口座に放置された休眠状態の社会活動に活用できるように定められたのが、「休眠預金等活用法」という法律で、2018年1月に施行されました。具体的には、口座に残されたお金は金融機関から「預金保険機構」というところに移管されて、子ども若者支援・生活困難者支援・地域活性化の公益活動を行うNPO法人等に助成、貸付、出資されます。

では、休眠預金として移管されたお金は戻ってこないのでしょうか。後から預貯金が発見された場合、休眠預金が預金保険機構の管理下に移管されて公益活動に預金が活用されていたとしても、元々取引をしていた金融機関において所定の手続きを経れば、払い戻しを受けることはできます。

遺族が故人の銀行口座の預貯金を把握できていない、というトラブルを防ぐために、遺言書に残しておくことは相続人にとって助けとなります。可能であれば、口座情報やIDとともにエンディングノートもあるとさらにわかりやすくなります。

インターネット銀行だけではなく、仮想通貨や株式、投資信託、保険、FX、電子マネーなど、いわゆるデジタル資産が増えてきた昨今、遺産の把握のためにしっかりと自身が持つ資産を配偶者や子供に知らせるよう、遺しておくことが大切です。

(高橋)