夫婦のどちらかが亡くなった時に自宅に住み続けるために(2) ~遺言書に『配偶者居住権』を記載する
2021.10.11
配偶者居住権を取得する場合の遺言書の書き方について
配偶者居住権を取得するための要件のうち「遺贈によって配偶者居住権を取得する」場合の遺言書の記載についてご説明します。
まず一番注意が必要なのが、配偶者居住権については「相続させる」という記載でなく、「遺贈する」という文言にすることです。
これは、配偶者が配偶者居住権の取得を希望しない場合に、相続放棄をすることなく遺贈の放棄によって配偶者居住権の取得のみを拒絶できるようにするためです。
記載例は下記のとおりです。
1. 遺言者は、遺言者の有する下記の建物の配偶者居住権を遺言者の妻〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に遺贈する。
所 在 東京都新宿区神楽坂〇番地
家屋番号 〇番〇
種 類 居宅
構 造 木造スレート葺2階建て
床 面 積 1階 〇〇.〇〇平方メートル
2階 〇〇.〇〇平方メートル
なお、「相続させる」と記載されていても、遺言書の全体の記載から遺贈の趣旨と解することに特段の疑義が生じない限り、配偶者居住権に関する部分を遺贈の趣旨であると解して設定の登記を申請することができます。(法務省民二第324号通達)
配偶者居住権の消滅と期間について
配偶者居住権は次の場合に消滅します。
- 存続期間を決めたときは、その存続期間が満了した場合
- 配偶者が死亡した場合(配偶者の居住権を保護するための権利なので相続の対象にはなりません)
- 建物を取り壊したとき
- 建物が配偶者の財産になったとき
- 配偶者が配偶者居住権を放棄した時
配偶者居住権を登記した場合、期間を定めなければ、配偶者が亡くなるまでとなります。のちに配偶者が施設に移るなどして住まなくなり、不動産を売却する場合には、配偶者居住権の抹消の手続きをしなければいけませんので、配偶者の今後の生活状況も含めて期間を定めることを考えてもいいかもしれません。
期間について定める場合には、遺言書には次のように記載します。
1.遺言者は、存続期間を遺言者の死亡時から〇〇年間として、遺言者の有する下記の建物の配偶者居住権を遺言者の妻〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に遺贈する。
土地の部分について
配偶者居住権は建物のみに設定されるので、土地については記載は不要です。
(配偶者居住権の記載が載るのは建物の登記簿謄本だけですが、相続税計算上は建物・土地それぞれの評価額に影響があります)。
その他
固定資産税や修繕費の支払について
民法第1034条1項において、「配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。」と定められています。通常の必要費とは、修繕費や建物、その敷地の固定資産税が含まれるといわれていますので、配偶者がそれらの費用を負担します。
適用
令和2年4月1日以降の相続から適用されましたので、この日以前に作成した遺言書については、書き直しや追加などの見直しが必要になります。
また、令和2年4月1日以前にお亡くなりになった場合、遺産分割協議を4月1日以降に行ったとしても適用されませんのでご注意ください。
家族が仲がよく、円満な相続により残された配偶者がトラブルなく住み続けられる、配偶者が長く自宅に住まないであろうという状態にある、多くの金融資産があり自宅の他に金融資産も相続できるなどの場合には設定する必要がないかもしれません。それぞれの方の資産状況や家族関係、配偶者の年齢や健康状態など様々な視点から検討する必要がありますので、ご興味があれば専門家にご相談されることをお勧めします。
(文責 高橋)