「相続させる」遺言と代襲相続
2018.05.23
「相続させる」遺言は、遺産分割方法の指定であると判示されたことから、遺言作成時にはかなり一般的に利用されようになった文言です。
例えば、「長男Aに以下の不動産を相続させる~」とすると相続開始時から不動産の所有権は長男Aに移ることになり、相続の手続きもし易くなります。
さて、便利な「相続させる」遺言ですが、相続させるとした相続人が遺言者よりも先に亡くなってしまった場合はどうなるのでしょうか。
遺言者よりも先に受遺者が死亡していた場合
この場合は、明文で規定があります。
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
民法第994条
1.遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
それなら当然無効なのでは?と思うかもしれませんが、あくまで無効なのは「遺贈」であって、「相続させる」遺言は相続であるためややこしいことになります。
代襲相続とは
代襲相続とは、相続人になるはずだった子が親の相続よりも先に死亡していた場合に、子の子、つまり孫が子に代わって相続人(代襲相続人という)となることをいいます。更に孫も死亡していた場合はひ孫が相続人になります。
兄弟姉妹が相続人になる場合、兄弟姉妹の子は代襲相続人になりますが、更にその子は相続しません。代襲相続という制度はそもそも親の相続に対する期待を保護するものであり、その比較衡量から兄弟姉妹の場合は範囲が狭くなっています。
なお、死亡していた場合だけでなく、廃除、相続欠格の場合にも代襲されます。相続放棄の場合には代襲されませんので注意が必要です。
参考判例
「相続させる」遺言により、遺産分割方法の指定による相続がされる場合でも、その相続は法定相続分による相続と性質が異なるものではないため、代襲相続人に相続させると規定が適用又は準用されると解するのが相当である。
(東京高判平18.6.29より抜粋)
しかし、上記のような判例がある一方で、特段の事情がない限り遺言は失効し、代襲相続人に相続させるという特段の意思表示があった場合にのみ代襲相続されるとする判例もあります。更なる判例の蓄積が待たれますが、遺言は待ったなしのこともあります。
考察
そこで、現状では「相続させる」相続人が先に亡くなる可能性を検討し、遺言が失効すると問題があるために代襲相続させる意思がある場合には、あらかじめ代襲相続させる旨を遺言書に記載しておくべきであると考えます。
遺言を作成しても、亡くなるまでには5年、10年以上経過することもあります。先々のことを考えて遺言することも大切ですが、完ぺきに対処することは不可能です。書き換えはいつでもできますので、ひとまずその時点でベストな遺言を作成し、必要なら適宜書き換えるのが現実的な対応といえます。