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成年養子縁組の利用法①

2018.07.31

成年養子縁組とは、養子縁組届を当事者の本籍地又は住所地の市区町村役場に提出することで、その日から実の親子と同じ関係を発生させる(普通養子)、契約兼制度です。

そもそも、日本では古くから家督を継ぐための手段として成年養子縁組が利用されてきました。現代においては家督制度がなくなり、家の承継という面での成年養子縁組の意義は薄れましたが、財産承継の手段として、またおひとりさまの増えている社会において唯一の親子関係を創設する手段として、単なる契約では不十分な面を補うことが出来る手段です。

養子縁組は年間8万件以上の届出があり、そのうちの約3分の2が成年養子縁組です。

一方で、成年養子縁組制度が詐欺的な利用をされたり、ネームロンダリングに利用されたりと問題になるケースも増えてきています。本稿では数回に分けて、成年養子縁組の利用方法と効果、問題点について触れてみたいと思います。

 

 

成年養子縁組の手続き

 

要件

1 養親は20歳以上又は婚姻によって成年擬制を受けるものであること

2 養子は①養親より年上でないこと(年長者養子の禁止)、②既に養親の嫡出子や養子ではないこと

3 養子縁組届に成年の証人2名の署名押印が必要

 

必要書類

①成年養子届、②戸籍謄本(提出先が本籍地以外の場合)、③その他成年後見がある場合に必要な書面等に分かれます。通常は、①のみ提出すればよい、非常に簡単な手続きです。

 

提出先

養子又は養親の本籍地又は住所地の市区町村役場戸籍課

 

 

相続権

普通養子は縁組をした日から養親の実の子(嫡出子)と同じ相続権を取得します。

最高裁判例により、2013年9月5日以降に発生した相続は、嫡出子の相続分は等しくなりましたが、半血兄弟姉妹の相続分規定は存在するので、養父母の一方のみと養子縁組している場合には他に実子がいれば、相続分はその2分の1となります。

なお、養子縁組前の養子の子には養親の相続に関して代襲相続権がありません。

 

扶養義務

実の親子と同じ関係が発生しますので、民法877条1項の直系血族間での扶養義務も発生します。元の実親が生きていればその扶養義務もなくなるわけではありませんので、二重の扶養義務となります。

判例上、成年養子の扶養義務は、未成年者への扶養義務と違い、生活扶助義務で足りるとされています。生活扶助義務とは、自身の生活を収入や地位に応じて営みつつ、余力がある限りで生活必要費を給付する義務と解されます。また、金銭等を給付することが原則であり、引き取って養うことは扶養義務者が希望する場合のみ許されます。

 

 

養子縁組届出をすることで養子は原則として養親の氏を称することになります。ただし、婚姻の際に氏を改めたものはこの限りではありません。養親の氏を称するとは、同じ戸籍に入るということでもありますが、夫婦セットで養子になる場合や、婚姻の際に氏を改めなかったものが養子となる場合には養子夫婦について新戸籍を編成します。養子の子の氏は当然には養親の氏に代わりませんので、親の戸籍には改めて入籍届を出す必要があります。

 

 

税制上の優遇

 

・相続税の基礎控除への算入

・相続税の生命保険金、死亡退職金の非課税の適用

・住宅取得等資金の贈与に関する贈与税の非課税の特例の適用

・結婚子育て資金の一括贈与に関する贈与税の非課税の適用

・教育資金の一括贈与の贈与税の非課税の適用

・相続時精算課税制度の適用

 

ただし、相続税の基礎控除に関しては、養親に実子がいる場合は1名、実子がいない場合は2名までしか算入できません。

 

 

前半まとめ

ここまでにあげた効果以外にも、精神的な安心感やいざという時のサポートなど、本来養子縁組制度で期待される効果もあります。しかし、成年養子は未成年のように扶養されることがないため、財産的な面に注目されがちです。精神的な繋がりを全く無視した成年養子縁組には問題が多く、事件となることもしばしばです。そのあたりの問題は後半にて。